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日経ビジネス 2013年1月7日(月)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20121227/241649/?top_updt
中国労働人口、年内に減少へ
津上俊哉氏(現代中国研究家)寄稿
一人っ子政策導入から30年以上。
出生率に想定以上の急ブレーキがかかっている。
現代中国研究家、津上俊哉氏の推計によると生産年齢人口は2013年でピークアウトする。
少子化が急速に進む中国が、いつまでも高成長を続けるというのは幻想にすぎない。
中国の出生率に予想以上の急ブレーキがかかっている。
中国政府は「1.8」と言い続けてきたが、最近の調査で「1.18」へ低下していたことが判明。
現代中国研究家、津上俊哉氏がこれらのデータから推計した結果、労働力の中核を担う15歳から64歳までの生産年齢人口が、これまでの通説の2015年以降ではなく、2013年にピークアウトし、減少へ転じることが初めて明らかになった。
一人っ子政策で出生率を抑えてきたが、生活費が上昇する都市部で子供の養育は簡単ではない。
急速な少子化で労働者が減り、賃金上昇が加速すれば、経済成長は一段と大きな壁に突き当たりかねない。
中国の失速は、中国依存度が高い日本や世界経済へも甚大な影響を及ぼす。
津上氏は以下の寄稿文で、仮に一人っ子政策を撤廃しても、それだけでは出生率の回復には力不足で、中国の将来に対する楽観的な見通しは大幅な修正が必要と指摘する。
■少子化、日本より深刻に
2012年1月、中国国家統計局は
「生産年齢人口の総人口に占める比率が2011年は74.4%で、2010年の74.5%から初めて減った」
と発表した。
わずか0.1%の減少ではあるが、私はこの内容を意外に感じた。
中国の統計発表は肯定的な側面ばかりを強調するのが常であり、その“慣習”に照らせば、経済成長に打撃を与えかねない生産年齢人口比率の減少は「言わなくてもよい」ことに類する。
なぜそのような発表をしたのか、改めて中国の人口動態が気になった。
周知の通り、日本を筆頭に東アジア各国で少子高齢化が深刻化しつつある。
だが、中国は今も「計画生育政策(いわゆる一人っ子政策)」をやめる気配がない。
2人目を生んだ時に支払われる罰金が、末端地方政府などの既得権益(運営財源)になっているためとの指摘もある。
むしろ海外の方が
「このまま中国は人口抑制を続けていて大丈夫なのか」
と気をもんできた。
特に懸念されているのは合計特殊出生率(*1)の動向だ。
一人っ子政策の堅持を主張する国家計画生育委員会は長年、「中国の出生率は1.8」と主張し続けてきた。
国連の「世界人口推計」でも、出生率の数値は国家計画生育委員会に近い値を採用しており、これが中国の人口推計に権威を与えてきた。
しかし、農村などでの出生状況が必ずしも正確に把握されていない中国では、人口問題に詳しい識者の間で1.8という数字に以前から疑問が投げかけられていた。
「多く見積もっても「1.6」程度」
「いや、下手すると「1.4」を下回っているのではないか」
といった声がささやかれてきたのである。
*1=Total Fertility Rate(TFR)、中国語では「総和生育率」
■こっそり改訂された国連推計
こうした経緯もあったので私は国家統計局が10年ぶりに実施した大規模な人口調査「人口センサス(以下「2010センサス」と呼ぶ)」に注目した。
2011年4月に中国の総人口(*2)が13億3976万人と公表されたが、その後詳報が出てこない。
「公表しない気か?」と疑心暗鬼になっていたら、ようやく2012年夏に統計表が刊行された。
そこで公表された出生率は衝撃的だった。
全国の合計特殊出生率は1.18で、中国でこれまで議論されてきた数字をはるかに下回っていた。
少子高齢化に悩む日本ですら、2011年の出生率は1.39だ。
日本も経験したことのない速さで少子化が進んでいる。
地域別の出生率を示したのが上図だ。
中国で最も経済が発展している北京市や上海市は0.7強しかない。
人口規模を維持できる出生率水準は2.1とされているので、沿岸部の大都市では早晩深刻な影響が出るだろう。
出生率が2を上回るのは少数民族が多い一部の農村だけである。
少数民族は一人っ子政策の対象から外されているため、出生率があまり下がっていないのであろう。
2010センサスは男女別、都市・鎮・郷村の居住地域別に、1歳刻みの死亡率と婦女生育率(生育率は10%サンプル調査)のデータを提供しているので、将来の人口を推計できる。
私は単純な条件(出生率、新生児の男女性差、死亡率、都市・鎮・郷村の人口居住割合はすべて不変)で、2030年までの中国の人口を試算した。
2010年センサスから出生率や死亡率を勘案して2011年の男女別推計人口や出生人口を推計し、以下同じ作業を繰り返す「コーホート」方式を採用した。
この試算に基づくと、
中国の総人口は2020年の13億6960万人をピーク
に純減に転じ、その後、
2030年までに約3200万人も減少する。
これまで「総人口が減少に転ずるのは2032年」と通説のように言われてきたので、本推計によると10年以上も早まることになる。
*2=香港・マカオ・台湾の人口や解放軍人、住所不定者・海外在住者を除いた数値」
これまでの通説の由来は
「中国の人口は2032年に14億6300万人をピークに減少する」
とした国連人口推計2008年版だが、2010年版は突如、人口のピークを
「2026年に13億9600万人」
と大幅に下方修正した(いずれの数値も中位推計)。
この修正の過程は唐突で不透明だ。
日本を含め世界中で最も権威があるとされる国連の推計をベースに中国の経済と国力の将来像を予想してきたのだから、国連当局は何らかの説明責任を果たすべきであろう。
■労働人口、7700万人減少へ
人口推計から生産年齢人口も簡単に導ける。
それによると、生産年齢人口の比率は2010年の74.5%をピークに減少に転じ、2010年代後半になると下げ足を速め(年率マイナス0.4%前後)、2020年には72%を割り込む。
生産年齢人口の総数は、2013年に10億人へ達してから減少に転じる。
2030年までに労働の担い手が7700万人近くも減る見通しだ。
2020年代後半になると生産年齢人口・同比率とも減少に拍車がかかる。
上のグラフで示したように、生産年齢人口とその比率は2020年代半ばに一時、微増する時期がある。
これは3000万人以上が餓死したとされる「大躍進」の惨事で出生人口が急減した世代(1959~62年)が65歳に達し、生産年齢人口からの退出のペースが下がるために起きる特異現象である。
中国では最近、権威ある書き手により、極低出生率を踏まえて人口政策の転換を訴える提言書が出版された(『人口形勢の変化と人口政策の調整』、中国発展出版社)。
そこでは
「合計特殊出生率は2010センサスでは1.18とされたが、調査の過程で生じる出生の捕捉漏れ(出生隠し)を考慮すると、出生率は1.5以下であろう」
と曖昧な書き方をしている。
仮に真実の出生率が1.5であるのに、2010センサスの結果が1.18と出たとするならば、出生数の3割近くが調査から漏れている計算となる。
実際、真実の出生率は1.18と1.5の間であろう。
ただ、その数値がいくつであろうと、生産年齢人口の比率が既に下降プロセスに入り、総人口も2020 年代の前半にピークアウトする大勢は動かない。
しばしば隠蔽体質を批判される中国で、国家統計局は将来の成長に懸念を抱かせかねない「出生率1.18」という数字をよくぞ公表したものだと感心する。
予兆はあった。
この1年、中国の内部情報に通じる立場にある複数の中国人が出生率の低さについて話すのを私は何度か聞いていた。
中国共産党や政府内部でも
「真実を伏せ続けたら大変なことになる」
との危機感が高まっているのではないか。
出生率が回復しなければ、中国の総人口は今世紀末に5億人を割ってしまう。
放置すれば、兵士の担い手もいなくなるという事態に直面するだろう。
実は、過去10年は中国の高度成長期のラストスパートだった。
2001年の世界貿易機関(WTO)加盟後、インフラ投資などのために外国資本を大量に誘致して、グローバリゼーションの波に見事に乗っただけではない。
人口動態の視点から見ても、生産年齢人口比率と貯蓄率がダブルに上昇したことにより、労働と資本の投入が頂点を迎えたのである。
中国の生産年齢人口が上昇に転じたのは1970年前後だが、当時は労働集約産業の軽視や農村人口移動の制限のせいで、人口ボーナスを享受し損ねた。
80年代後半からの改革開放政策により、沿海都市部が輸出生産拠点となり、出稼ぎ農民など内陸部の余剰労働力を受け入れた結果、今度は人口動態を上回る労働力が投入された。
つまり、過去に取り損ねた人口ボーナスが加算されて、90年代後半以降の成長を「倍加」させてきたわけである。
また、この時期に子供の出生が急減したことで、国全体の子供養育負担が軽減した。
輸出産業で得られた大量の雇用と子供養育負担の軽減は、貯蓄率を急上昇させ、並行して進んだ国内投資牽引型の経済成長を支えた。
このように中国は過去20年間にわたり「人口ボーナス」を享受し続けてきたが、これからはギアがバックに入って
「人口オーナス(重荷・負担)」の時代
が来る。
人口オーナスの苦しさは日本人が身をもって体験していることだ。
日銀によると、日本の過去10年間のデフレ・低成長の大きな原因は、世界史に例を見ないほどの急速な高齢化や人口減少に起因する。
2000~10年で先進国の実質GDP(国内総生産)を単純比較すると伸び率で日本はビリだが、労働人口 1人当たりの実質GDP成長率は日本が先進国でトップになる。
平たく言えば、現役一人ひとりが頑張っても、現役の総数が減ると、経済成長が立ち行かなくなってくるのである。
■中国の際限ない強大化は幻影
中国政府は密かに一人っ子政策の漸進的撤廃の検討に入っただろうが、それだけで出生率が回復する見込みはない。
規制が撤廃されても、今の若い夫婦は2人目を産む経済的負担に耐えかねるのだ。
育児・教育・住宅など生活全般にわたって公共財政の配分を大がかりに変える優遇策がないと、出生率を回復させることはできないだろう。
仮に出生率を回復できても、別の問題が待っている。
経済成長の観点から言えば、扶養人口の急増により、向こう15~20年にわたって生産年齢人口比率がさらに落ち込み、貯蓄も減るので、成長がますます難しくなるからだ。
私の計算では、仮に今後10年で出生率を人口維持水準と言われる2.1まで強引に引き戻せた場合でも、2030年時点の生産年齢人口比率は現状より10%も低下する。
一度深刻な少子高齢化プロセスに入り込むと、なかなか出口が見当たらなくなるのだ。
以上の推計は、中国経済に対するこれまでの楽観的な見通しに大幅な修正を迫るものである。
日本国内では沖縄県尖閣諸島の問題をきっかけに、反中ナショナリズムが強まっているが、これは
「中国が今後どこまで成長し、強大化するか分からない」
という幻影にかき立てられているきらいがある。
中国の高度成長期は既に終わっている。日本がこの幻影に怯えて、中国と政治・軍事的に対立し、己の経済利益を犠牲にするのも愚策だ。
日中どちらも解決のつかない領土・領海問題を争っている時間や経済的余裕はない。
【人口危機で問われる習政権の実力】
世界経済を牽引してきた中国の力は、13億人を超える世界最大の人口に起因する。
かつては安価な労働力で「世界の工場」となった。
所得を増やしてきた今は「世界の市場」として存在感を高めた。
その魅力があるからこそ、日本など外国の企業は中国への投資を増やしてきた。
だが、力の源泉となる人口に陰りが出れば、前提条件が大きく変わる。
2032年に始まると予想されていた総人口の減少が、津上俊哉氏の試算では 10年以上も早まる。
生産年齢人口の減少が2013年から始まれば、賃金のさらなる上昇は避けられない。
中国に進出している企業は戦略を根本から見直す必要がある。
1980年に本格導入された一人っ子政策は、貧しかった当時の中国には不可欠な政策だった。
導入から30年以上が経過し、中国内外の状況は様変わりした。
1.18という出生率を改善できなければ、中国は今後、急速な人口減少に直面する。
中国共産党もこの危機的状況を十分に認識している。
昨年11月に開かれた第18回中国共産党大会で、胡錦濤前総書記による政府報告の中にその兆候が垣間見える。
これまでの政府報告では
「低生育水準を保持安定化」
との表現が長年頑固に維持されてきたが、今回の党大会では
「人口の長期的均衡発展を促す」
という新しい表現に置き換わっていたのだ。
恐らく2010年に10年ぶりに実施した人口調査の結果、極めて低い出生率が明らかとなり、政府も対応に乗り出さざるを得ないと判断したのだろう。
だが、今さら政府が旗を振ったところで、出生率が急激に回復する見込みは低い。
子供の数が増えれば、家庭だけでなく国全体にとっても経済的負担が高まる。
人口減少だけでなく、反日活動など中国はリスクも多いが、日本企業にとっては依然として大切な市場でもある。
発足したばかりの習近平政権が、これらの課題にどう対処していくのか。
真価が早くも問われている。
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「人口が多いと発展する」
なんていうのは、過去の発展基調をベースに作り上げられた経済学の遺産にすぎない。
もし、労働人口が大きいと発展するなら、大学卒の就職難で苦しんでいる国々(そのさいたるものが日本だが)は、大いなる発展を遂げてもいいはずであろう。
でも、そうはなっていない。
この矛盾に、まともに答えている経済学者は少ない。
企業の労働の第一の問題は、いかに人件費を減らして生産を維持し、そして成長させるかである・
そのことを考えれば経済が成長すればするほど、必要な人手は少なくなっていくはずである。
だからこそ若者の働き口がなくなっていくのでろう。
しかしマスコミ論調は、相変わらず労働人口の減少が危険だ、とばかり虚しい声を上げている。
なぜ、中国は一人っ子政策をとるのか。
子供が2人で人口は増えもしないし減リもしない。
一人っ子政策をすれば、当然、人口は減少する。
政府はわかっていてやっている。
なぜか。
人口を減らしたいからである。
それ以外の答えはない。
逆に言えば、人口が多いから減らさないといけない、と判断しているということである。
問題は人口減少にはない。
それは当然の問題であって論議の対象にはならない。
問題になるのは「どこまで減らすか」である。
中国当局がどこまでの目標で減らそうと考えているかはわからない。
「億の桁」を2桁から1桁くらいにはしたいと思っていることだろう。
それでも、10億の人口を抱えることになる。
「10億未満」にするには、現在13億5千万人とすると、今世紀の中間点までに3億5千万人減らすということになる。
2050年まであと37年とすると、年間約「1千万人」づつ減らして行かねばならないということである。
人口を適正にするというのは、どこでも同じである。
日本は韓国は、生態系からの要求で自然に減じている。
中国はそれを人工的に一気にやってしまおうとして「一人っ子政策」を導入したのであろう。
後発国として少々荒っぽくやるのはしかたがない。
生態系が動いてくれるまで、のんびり待つわけにはいけないほどに、人口の多さが社会のネックになっているということでらろう。
【中国の外交文書:“尖閣は琉球の一部”】
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