2012年12月28日金曜日

中国ミサイルの恫喝:屈するしか道がない?

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●中国人民解放軍の対日攻撃概念図(『尖閣を守れない自衛隊』より)



JB Press 2012.12.25(火)  北村 淳
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/36805

マスコミが伝えない中国の対日攻撃ミサイル
本当の脅威は北朝鮮の「銀河3号」ではない

 12月12日に実施された「銀河3号」の打ち上げに伴い、何らかの破片が降ってくるかもしれないということで、日本のマスコミの多くは「弾道ミサイル発射」と大騒ぎをしていた。
  しかしながら、銀河3号の破片落下の可能性程度で長射程ミサイルの脅威を騒ぎ立てるのならば、“銀河3号の破片”とは比べ物にならないほどはるかに深刻な弾道ミサイルの脅威を国民に知らしめ、その脅威を取り除く対策を急ぐよう政府・国防当局に対する世論を盛り上げるべきである。
 にもかかわらず、真の脅威には目をつむり、瑣末な事象で脅威をあおる姿勢は、イエロージャーナリズムとの誹りを免れないと言えよう。

日本には直接的な脅威ではない「銀河3号」

 銀河3号そのものはミサイルではなく人工衛星を地球周回軌道に押し出すローンチビークルであるが、銀河3号の技術を軍事的に使用すると大陸間弾道ミサイル(ICBM)へと発展させることができる。

 「テポドン2号」弾道ミサイルの改良型と見られている銀河3号は、1万キロメートル以上の射程距離を確保したものと韓国軍当局ならびに韓国政府は判断している。
 したがって、3段ロケットの銀河3号に攻撃用弾頭を搭載すれば、アメリカ西海岸を射程圏に収めるICBMが誕生することになる。
 そして推力をさらに強化できれば、アメリカ全土を攻撃可能な射程距離1万3000キロメートルを達成することができる。
 北朝鮮のロケット技術の進捗状況から判断すると、2~3年以内には射程距離をあと3000キロメートル延長することは可能であろうと見なされている。

 ただし、弾頭を取り付ければICBMが誕生するとはいっても、弾道ミサイル弾頭の技術開発は極めて困難である。
 効果的に敵を攻撃するための弾道ミサイル弾頭を開発するには、少なくとも数回の実射テストが必要である。
 この種の試射の場合、人工衛星の打ち上げといった口実は全く通用しない。
 ミサイル技術開発自体の困難さに加えて、アメリカ・韓国・日本をはじめとする国際社会からのより強力な経済制裁を幾度も凌ぎながらミサイル弾頭開発実験を繰り返さなければならないことになる。
 したがって、米軍などの弾道ミサイル技術専門家たちは、北朝鮮がアメリカ攻撃用ICBMの開発に成功する道は遠いと考えている。

 いずれにせよ、銀河3号の開発そのものが直接軍事的脅威となるのはアメリカであり日本ではない。

 ただし、銀河3号発射成功に用いられた技術から、日本にとって直接的脅威になるであろう技術も存在する。
 例えば、韓国国家情報院によると、銀河3号の3段目ロケットには高度なロケット技術である誘導操縦技術が使用されていた。
 したがって、北朝鮮の弾道ミサイル発射技術は相当進展していると考えなければならない。

 そして、北朝鮮は日本を攻撃可能な弾道ミサイルを極めて多数配備しているのである。それらの日本攻撃用弾道ミサイルの性能も、銀河3号同様に向上していると考えなければならない。
 すなわち、日本が直面している脅威は増大しているということになる。
 日本が警戒すべきは銀河3号ではなく日本攻撃用弾道ミサイルの存在なのである。

北朝鮮の日本攻撃用弾道ミサイル

 朝鮮人民軍戦略ロケット軍は韓国や日本を射程圏に収める数種類の弾道ミサイルを多数保有している。
 それらのうち「スカッドER」ならびに「ノドン」は日本攻撃に使用することができる。

 スカッドERの最大射程距離はおよそ800キロメートルと言われているため、北朝鮮南部から発射するとかろうじて大阪に届くことになり、阪神地方から長崎までを射程圏内に収めている。
 ただし、最大射程がおよそ1000キロメートルという情報も(「朝鮮日報」2009年7月6日)あり、もしその情報の通りであったならば、新潟と浜松を結ぶラインより西側の日本のほぼ半分と小樽以南の日本海沿岸全域が射程距離に収まってしまうことになる。

 このミサイルの詳細は確認されていないため、正確な命中精度は不明であるが、最も進化したスカッドミサイルと考えられるため、1990年代に最新であったスカッドCの命中精度(CEP:Circular Error Probability=50メートル)と同等かそれ以上の精度と考えられる。
 CEPが50メートルであると、例えば原子力発電所や石油貯蔵施設のように、敷地内のいずれを破壊しても甚大な被害を生ぜしめる目標に対しての攻撃は可能である。
 (原子力発電所に対する攻撃は、なにも原子炉そのものが破壊されずとも、コントロールセンターや電源供給施設や汚水処理設備などが破壊されると甚大な被害が生じることは、福島第一原発事故が示している)

 朝鮮人民軍はおよそ350基のスカッドERを配備しており、地上移動式発射装置(TEL)から発射されるため、どこからでも発射可能である。
 最大射程距離がおよそ1300キロメートルと見られている「ノドン」は、まさに対日攻撃用弾道ミサイルと考えるべきである。
 朝鮮人民軍は、このミサイルを用いて先島諸島と小笠原諸島を除く日本のほぼ全域を攻撃することが可能である。

 このミサイルはイランやパキスタンに輸出され、それぞれ「シャハブ3型」「ガウリ1型」と呼ばれ、3カ国においてそれぞれ数回ずつの発射実験が行われているものの、詳細に関しては正確なデータは公表されていない。
 命中精度は低くCEPが2000~3000メートルと言われており、とても特定の目標を狙って攻撃する兵器とは見なせず、「恐怖を引き起こす」兵器と見なされている。
 北朝鮮は少なくとも200基のノドンを配備していると見なされており、スカッドER同様TELから発射される。

 (CEP=3キロメートルということは、攻撃目標を中心として半径3キロメートルの円内に発射したノドンの半数の着弾が見込めるということである。
 弾道ミサイルの国際水準に照らすと、「どこに着弾するか分からない」といった状態であり、攻撃目標以外の幅広い地域にも被害が生じる)

 このように、北朝鮮は日本のいずれかの場所を攻撃することができる長射程ミサイルを、少なく見積もっても550基は保有しているのである。

 したがって、日本のマスコミは「銀河3号」の破片が落下する可能性を取りざたして国民の恐怖心を煽るような報道をするよりは、北朝鮮はすでに日本を攻撃する能力がある多数の弾道ミサイルを配備している現実を国民に伝え、日本に突きつけられている軍事的脅威にどのように対処すべきなのかを真剣に考える手がかりを提供する義務がある。


●北朝鮮人民軍の対日攻撃長射程ミサイル


■中国の長射程ミサイルの方がはるかに深刻な脅威

 もっとも、いくら朝鮮人民軍が数百発のスカッドERとノドンを発射して、日本各地の数百カ所を火の海にする軍事能力を持っているからといっても、また現在の日本・北朝鮮関係が劣悪であるからといっても、北朝鮮によるミサイル攻撃が直ちに敢行されたり、北朝鮮がミサイル攻撃を恫喝の道具として日本を脅迫したりするための“口実”が見当たらない。

 つまり、北朝鮮政府が日本政府に押し付ける何らかの政治的要求がなければ、軍事攻撃や軍事脅迫の口実は生まれない。
 現時点では北朝鮮が多数の対日攻撃用弾道ミサイルを保有していても、それらを使用する口実がないのである。

 そう考えると、北朝鮮とは比べ物にならないほど日本側が恐怖を明確に認識しなければならないのが、中国である。
 中国は、大量の対日攻撃用長射程ミサイルを保有するとともに、それらを恫喝(場合によっては攻撃)に用いるだけの口実も(もちろん国際関係では一方的な口実で足りるのである)手にしているのである。

 中国人民解放軍の戦略ミサイル軍である第二砲兵隊が保有する弾道ミサイルである「東風21型」と長距離巡航ミサイルである「東海10型」ならびに「長剣10型」は、全て日本全土を射程圏に収めている。
 それらのミサイルは、満州東部地域あるいは山東省の沿海地域に展開する移動式地上発射装置(TEL)から発射される。
 東風21型はおよそ100基、東海10型・長剣10型は合わせておよそ600基が配備されており、それらの数は急増しつつある。


●中国人民解放軍の対日攻撃用長射程ミサイル

 第二砲兵隊だけでなく、中国空軍は満州東部地域上空や上海沖上空のミサイル爆撃機から発射する「長剣10A型」やその改良型の長距離巡航ミサイルで日本全土を攻撃することができる。
 同様に、渤海湾や山東半島沿岸海域や上海沖など中国海軍にとって安全な海域に位置する駆逐艦からも、艦上発射バージョンの「東海10型」で日本全土を射程圏に収めている。さらに、中国海軍の最新鋭攻撃原子力潜水艦は、西太平洋に進出して日本列島を太平洋側から長距離巡航ミサイルで攻撃する能力を持っている。

 北朝鮮の対日攻撃用弾道ミサイルと違い、中国の対日攻撃用弾道ミサイル・長距離巡航ミサイルの性能は格段に優れている。
 それらの命中精度だけを見ても東風21型(最新のDF-21C)のCEPは30~40メートルであり、東海10型や長剣10型といった長距離巡航ミサイルのCEPは10メートルと推定されている(ちなみにアメリカ軍やイギリス軍が配備しているトマホーク長距離巡航ミサイルのCEPは10メートルである)。

 したがって、中国軍は長射程ミサイルを用いて攻撃目標に対する精密攻撃を実施することが可能であり、例えば原発の制御施設、重要変電所、石油精製所のタンク、防衛省本庁舎A棟、首相官邸などをピンポイントで攻撃することが可能である。

■「戦わずして勝つ」ための最適のツールが長射程ミサイル

 北朝鮮と違い日本は中国とは国交もあるし、貿易や文化交流もより盛んに行われてはいるが、国家間武力紛争の最大の要因となり得る領土・領海問題を抱えている。
 そして、民主党政権による誤った外交的対応のために、尖閣紛争解決のために中国共産党政府が軍事力を何らかの形で用いかねないレベルへと緊張度は高まっている。

 軍事力を用いるといっても、軍事攻撃が即座に開始されるわけではない。
 軍事力の行使と戦闘を、そして戦争と戦闘を混同してはならない。
 軍事力を恫喝の道具として用いて日本政府や国民を脅迫し、中国政府の要求を日本側に無理やり受諾させるのも、軍事力の行使である。

 特に「孫子」の伝統を持つ漢民族にとっては、軍事力を剥き出しで使うのは拙劣な軍事力の使い方であり、極力戦闘を避けて軍事的威嚇や軍事力を背景にした恫喝、それに欺瞞・買収・篭絡を含んだ情報工作によって「戦わずして勝つ」ことこそ軍事力保有の目的なのである。
 そして、「戦わずして勝つ」という目的にとって最適のツールが、弾道ミサイルや長距離巡航ミサイルといった長射程ミサイルなのである。

 中国政府が、いよいよ腹をくくって軍事力を用いてでも尖閣諸島や東シナ海の境界線を確定しようと決意した場合には、
 日本政府に対して中国側の要求を受諾しない場合には上記の長射程ミサイルで各種発電所や石油備蓄施設や石油精製所といった
 社会的インフラを攻撃する可能性を示唆する軍事恫喝を実施するであろう。

 このような長射程ミサイル攻撃が敢行される場合には、「飽和攻撃」といって短時間に100~200発あるいはそれ以上のミサイルが日本各地の戦略目標に向けて発射されることになる(ちなみに、2011年3月の多国籍軍によるリビア攻撃に際して、米英軍は161発の長距離巡航ミサイルによる飽和攻撃を実施した)。

 現状では、日本にはそのような多数の長射程ミサイルによる飽和攻撃から国民を守るための防衛能力は存在しない(この実情に関しては次回記述する)ため、実際に攻撃を受けた場合には電力供給をはじめとする日本の社会的インフラは瞬く間に壊滅し、日本は破滅する。

 日本の頼みの綱である米軍救援部隊の出動も、中国による恫喝の段階では実現しない。
 したがって、日本政府が取り得る選択肢は中国の脅迫に屈するのみである(中国の日本に対する恫喝に関しては拙著『尖閣を守れない自衛隊』宝島社新書、を参照されたい)。

 日本側は、中国公船による尖閣諸島海域への接近や侵入それに領空侵犯などを騒ぎ立てているが、そのような「目に見える形の威嚇行動」とは比較にならないくらい日本にとり深刻な軍事的脅威は、
 中国各軍が日本に突きつけている各種長射程ミサイルなのである。

 銀河3号の破片が降ってくるかもしれない程度の事態で大騒ぎする日本のマスコミが、日本に突きつけられている中国の東風21型や東海10型をはじめとする各種長距離巡航ミサイルの危険性とそれへの対抗策構築の急務について、なぜ騒ぎ立てないのか? 
 極めて理解に苦しむところである。




【中国の外交文書:“尖閣は琉球の一部”】


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